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Project-Pandora公式ブログ

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(転載)天使に恋物語を

この記事は、公式HPに掲載されているお話を転載したものです。
事前情報をあまり得たくない方は、ご注意下さい。

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パンドラ童話集3 第2版の情報はコチラ










【天使に恋物語を】

 原作:Yunomi 作:しいか 


‐研究録‐
 『パンドラ童話集』を象徴する物語の1つ。
 絵本に比べれば冗長で、小説に比べると不親切。
 天使のくせに愚かで、悪魔のくせに慈悲深いのはよくあること。

 幸か不幸かなんて、そんなものはアナタの心が決めればいい。





【物語】


 むかーし、むかし、神様と天使がおりました。神様と天使には、敵がいました。1人は死神。もう1人は悪魔。死神は大勢の魔物を従え、幾千の武器を手にし、多くの魂を刈り取りました。悪魔は時に神様すら凌駕する術を繰り出し、天使すら食らう魔物を産み出し、死神の傍らにいました。
 何年も年十年も、神様と死神、天使と悪魔の争いは続きました。ですがある日、神様の知恵を借りた天使に打ち負かされ、死神は捕まりました。しかし悪魔が駆けつけました。悪魔は自分と引き換えに、死神を助けるよう言いました。悪魔の恐ろしさを知っていた天使達は、なくなくそれに応じました。こうして死神の代わりに掴まった悪魔は、神様の命令で、世界の果てにある、小さく暗い何もない牢屋で暮らすことになりました。その牢屋の番をしていたのは、神様にも気に入られていた、優秀な一人の天使でした。

「ねぇ、暇なの。お喋りに付き合ってくんない?」

 天使は『悪魔の言葉に耳を貸してはいけない』という言い付けを守り、一生懸命に勤めました。ですが次の日も、そのまた次の日も、悪魔は話しかけました。天使は何度もそれを断りました。しかし悪魔は、勝手に独り言を話すようになりました。悪魔が語るのは、天使が見た事のない世界、神様が与えない知識…いけない、とは思いつつも、悪魔の言葉から耳を遠ざけることができなくなっていました。悪魔の話が楽しみになりました。そしてある日、自分から話かけてしまいました。
 それからというもの、天使と悪魔は毎日お喋りをしました。時に、神様すら凌駕する悪魔と、神様に気に入られるほど優秀だった天使のお喋りは、どれだけ月日が経っても、弾み続けました。やがて世界や知識だけでなく、お互いのもっと深い部分を明かすようになってからも、会話は続きました。
 ですが、その語り合いも、終りの日がやってきました。悪魔が掴まった日から、ちょうど1年の時…悪魔の牢屋に、別の天使がやってきて、いいました。

「明日、悪魔を処刑することになった」

 別の天使はそういうと、準備をするためいなくなり、2人だけが取り残されました。その日の会話はとても短く、初めて悪魔が牢屋に来た日のような、長い沈黙だけが続きました。どちらも何も話さないまま、どちらも眠れぬまま、次の日が訪れました。日の出と共にやってきたのは、悪魔を処刑するために武器を持った、大勢の天使。

「刑を…執行する」

 そして、神様から鍵を預かってきた天使が牢屋の扉を開けた途端、辺りを埋め尽くすほどの煙と、思わず耳を塞ぐほどの轟音が鳴り響きました。煙の中から、悪魔の聞きなれた、あの天使の声が聞こえました。毎日のように話をした声が聞こえました。悪魔が声のする方に手を伸ばすと、そこには、見張りをしていた天使がいました。
 天使と悪魔は、牢屋から逃げ出しました。もちろんすぐに追っ手がやってきました。ですが2人は、神様の目を欺き、天使たちから逃げ続け、世界をぐるりと一周するほど逃げ周ると、大きな湖までやってきました。そこには、悪魔とずっと一緒にいた死神が待っていました。

「ここに、キミを連れてきたかったんだ。ボクの産まれた場所だから…でも、ボクの役目は終り。あとは、死神に任せるよ」

 天使はそういいながら微笑みました。悪魔はチラリと死神の方を見、頷いてから天使に近づくと……

「バイバイ、世界で2番目に好きなヒト」
「さようなら、世界で1番好きになってはいけなかったヒト」

 そして温もりすら感じられないほど軽い口付けを交すと、悪魔と死神は、いずこかに消え去っていきました。その後、死神と悪魔は、再び神様と天使たちに牙を向けるようになりました。その後、悪魔を逃がした天使は神様の怒りに掴まり、大きな罰を受け、そして…そしてどうなったか誰も覚えていないほど年が経った今も、大きな湖のほとりで、悪魔のことを思っているのだそうな。

 おしまい。
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